学会ポスターの誠実なグラフ|誤解を生む6つの形と直し方(全5回・最終回)
図の欠点には3段階あります。見た目が整っていない図、読み取りを妨げる図、そして数値と見た目が合っていない図です。最後の1つは、作った本人にそのつもりがなくても、読み手は「差を大きく見せている」と受け取ります。学術ポスターでいちばん避けたいのは、これです。最終回では、作図ソフトの初期設定や慣れで起きやすい6つの誤解と、誠実な図にするための直し方を解説します。
— 見た目と数値が合っているか
図の欠点は3段階で考える
| 段階 | 何が起きているか | 対応 |
|---|---|---|
| 整っていない | 色や文字の大きさ、配置が雑。読めるが印象が悪い | 第2回・第4回の整え方で直す |
| 読み取りを妨げる | 凡例との往復、6本の折れ線、4項目以上の円グラフ。読めるが時間がかかる | 第1回・第2回で形を選び直す |
| 数値と合っていない | 値が2倍なのに図では4倍に見える。値が同じなのに違って見える | この記事で扱う。必ず直す |
誤解を生みやすい6つの形と、誠実な直し方
1目盛りが途中から始まる棒グラフ
2折れ線グラフの縦軸の範囲
折れ線グラフは、位置と傾きで変化を表します。そのため、棒グラフと違って、目盛りを0から始める必要はありません。ただし、縦軸の範囲を変化の幅ぴったりにすると、わずかな変化が急な変化に見えます。上下に1〜2割の余白を取り、軸の範囲を数字で示すのが基本です。変化の大きさそのものを伝えたいなら、「基準の時点からの差」を描き直します。
3左右に別の軸を持つグラフ(2軸グラフ)
43Dの図と、面積で比べる図
5欠測を線でつないで隠す
6意味を書いていない誤差線
誤差線には、決まった意味がありません。標準偏差(SD)なら「ばらつきの大きさ」を表します。標準誤差(SE)や95%信頼区間(95%CI)なら「平均の推定の確かさ」を表します。同じデータでも、どれを使うかで長さがまったく違います。何を表す誤差線なのかを、図の中かキャプションに必ず書きます。
- キャプションのかっこに「誤差線は95%CI」のように書く
- 誤差線が重なるかどうかで有意差を判断しない。有意差を示すなら、検定の結果(p値や差の信頼区間)をかっこに書く
- ばらつきそのものを見せたいなら、平均と誤差線ではなく、一人ひとりの点や箱ひげ図にする(第1回)
誠実な図の3つの条件
強調は、色と大きさと並び順でできます(第2回・第4回)。軸や形で差を大きく見せる必要はありません。見た目と数値が合っていない図は、質疑でその点を指摘されると、ほかの図まで信頼を失います。
印刷前の点検:6項目
- 棒グラフの目盛りは0から始まっているか
- 折れ線グラフの縦軸は、上下に余白があり、範囲を数字で示しているか
- 左右に別の軸を持つグラフを使っていないか(使うなら図を2枚に分ける)
- 3Dの図、面積で比べる図を使っていないか(割合は横棒グラフに、円グラフは2〜3項目まで)
- 欠測の区間で線を切り、欠けた時点を横軸に残しているか
- 誤差線が何を表すか(標準偏差・標準誤差・95%信頼区間)を書いているか
シリーズのまとめ
全5回に共通する考え方は1つです。図は、本文を読む前に結論を伝えるためにあります。そのために、次の5つを行います。
- 伝えたいことから図の形を選ぶ(第1回)
- 初期設定の部品を外し、4か所を直す(第2回)
- 数字を読ませる表と、差を見せる図を分ける(第3回)
- 強調は1色に絞る(第4回)
- 見た目と数値を合わせる(最終回)
紙面全体のレイアウト・文字・配色は、前編「伝わる学術ポスター 実例で学ぶデザイン」(全6回)で扱っています。前編最終回の10項目のチェックリストと、本記事の6項目を合わせて、印刷前の点検にお使いください。
条件を書く場所が、図のすぐ下にある
- キャプション欄 — 図のセルの直下に、結論の文と条件のかっこを書く欄があります。誤差線の意味や人数を書き忘れにくくなります。
- 全体プレビューとPDF出力 — 印刷前に全体を縮小表示して点検し、そのままPDFで出力できます。
※本記事の図は、ポサコの作例用に自作したものです。研究データ・氏名・所属はすべて架空です。図の原則は一般的な作図・視覚化の考え方と、Web上で全文が公開されている Claus O. Wilke『Fundamentals of Data Visualization』に基づいています。