第5回 図と写真:「飾り」でなく「主役」にする
ポスターの前で立ち止まった人が最初に見るのは、タイトルと図です。本文はそのあと、読む価値がありそうだと判断した人だけが読みます。つまり図はタイトルと並んで最初に伝える役割を負っていて、「文章の添え物」になっているポスターは、その最初の数秒を捨てています。図を主役に据えるための4つの原則——大きさ・1図1メッセージ・自己完結・写真の扱い——を解説します。
— 本文より先に、図が読まれる
原則 1図は大きく、数は絞る
小さな図を10個並べるより、選び抜いた図を大きく見せるほうが伝わります。目安として、紙面の4割以上を図表に使いましょう。図が本文の隙間に押し込まれているようなら、主役と脇役が逆転しています。
「どの図を大きくするか」は簡単で、口頭発表なら最初に見せるスライドの図——つまり主要な結果の図です。それを紙面で一番大きく見せます。最上段に置くと分かりやすいですが、結果のブロックの中で一番大きく扱う形でも構いません。
原則 21図1メッセージ——キャプションに結論を書く
1つの図に言わせることは1つに絞ります。そして、その言い分をキャプションに書いてしまいましょう。
「図2. 1年後歩行自立率」は図の名前でしかありません。「図2. 1年後歩行自立率(68.2% vs 52.6%, P<0.001)」なら、図の結論まで伝わります。図とキャプションだけを拾い読みする読者(実は多数派です)に、本文なしで要旨が伝わるようになります。
| ラベル型(惜しい) | メッセージ型(伝わる) |
|---|---|
| 図1 | 図1. 対象選定の流れ(465例を解析) |
| 図2. 歩行自立率 | 図2. 1年後歩行自立率(68.2% vs 52.6%, P<0.001) |
| 図4. サブグループ解析 | 図4. 多変量解析・サブグループ解析(関連の方向は一貫) |
原則 3図は「自己完結」させる
図の周りには、読まなくても分かるための最低限の部品があります。どれか1つ欠けるだけで、読者は本文との往復を強いられます。
- 軸ラベルと単位——「%」だけでなく「歩行自立(%)」まで書く
- n数——群ごとの例数を軸の下やキャプションに
- 凡例または直接ラベル——できれば線・棒のすぐそばに直接書く(視線の往復が減ります)
- 統計情報——P値・信頼区間は図中かキャプションに。本文にだけ書かない
スライド用の図をそのまま流用すると、この部品が欠けがちです。スライドは口頭で補えますが、ポスターはあなたが席を外している間も掲示され続けます。図の自己完結は、不在時のあなたの代弁者です。
原則 4写真は解像度とキャプションで決まる
顕微鏡写真・装置写真・フィールド写真などを使う場合の注意点です。
- 解像度——A0印刷では、画面で見るより粗さが目立ちます。原寸配置で150〜300dpiを目安に、元データの大きい画像を使う(Webからの流用画像は大抵足りません)
- スケールバー・矢印——顕微鏡写真にはスケールバー、注目部位には矢印やラベルを。読者は「どこを見ればいいか」を知りません
- キャプション必須——写真こそ「何が写っていて、何に注目か」を書く
- 飾り写真は入れない——本文と関係のないイメージ写真は、情報の密度を下げるだけです。空いたスペースは余白のままで構いません(第2回)
画面用の初期設定は、掲示距離では読めません。ポスターに載せるグラフは線を太く(2〜3倍)、軸の文字を大きく(本文と同等以上)、不要な目盛線・枠線・影を削除——この3点だけで見違えます。グラフ別の整え方はシリーズB「グラフ・図表の見せ方」で詳しく扱います。
今日からできるチェックポイント
- 図表が紙面の4割以上を占めているか
- 一番大事な結果の図が、紙面で一番大きく扱われているか
- キャプションが「名前」でなく「結論」を書いているか
- 軸ラベル・単位・n数・統計情報が図だけで完結しているか
- 写真に十分な解像度とスケール・注目ラベルがあるか
図を主役に置ける器がある
- 図優先のレイアウト — 図を大きく配置するブロックがテンプレートに用意されており、「本文の隙間に押し込む」構図になりません。
- キャプション欄つき — 図ブロックにはキャプション欄が付属。メッセージ型キャプションを書く場所に迷いません。
次回はいよいよ総集編。ここまでの5回分を10項目のチェックリストにまとめ、自分のポスターを自分で診断する方法を紹介します。
※本記事のポスター画像は、ポサコで作成した作例です。研究データ・氏名・所属はすべて架空です。デザインの原則は一般的な作図・視覚化の考え方に基づいています。