第3回 文字:遠くから読める情報階層
ポスター会場を思い出してください。通路を歩く人は3メートル先からタイトルを眺め、興味を持った人は1メートルまで近づいて見出しと図を追い、話を聞くと決めた人だけが50センチの距離で本文を読みます。文字のサイズと太さは、この「3つの距離」に合わせて設計します。
— ポスターは「3つの距離」で読まれる
原則 13つの距離に、3つのサイズ
ポスターの文字は「読者がどの距離から読むか」で必要なサイズが決まります。A0縦を想定した目安がこちらです。
| 読まれる距離 | 要素 | サイズの目安(A0) | 印刷実寸 (1文字の高さ) | 役割 |
|---|---|---|---|---|
| 3m(通路から) | タイトル | 80〜120pt | 約28〜42mm | 足を止めさせる |
| — | 著者名・所属 | 40〜60pt | 約14〜21mm | 誰の研究かを示す |
| 1m(立ち止まって) | セクション見出し | 50〜70pt | 約18〜25mm | 全体の流れをつかませる |
| 50cm(読む気で) | 本文 | 28〜36pt (基準32pt) | 約10〜13mm | 要点を伝える |
| — | 図のキャプション・注記 | 24〜36pt | 約8.5〜13mm | 図を自己完結させる |
※ ptは印刷実寸に固定された単位です(1pt=約0.35mm)。A0原寸で印刷すれば、どのソフト・どのパソコンで作っても同じ大きさになります。換算の目安は「pt × 0.35 ≒ mm」(ざっくり、ptの約3分の1)。試し刷りを定規で測るなら、本文32ptは漢字1文字が約11mm角です。タイトルはタイトルの長さ次第で調整します(長い場合は2行にして70〜60ptまで下げる)。
| pt | 24 | 28 | 32 | 36 | 40 | 50 | 60 | 70 | 80 | 100 | 120 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| mm | 8.5 | 9.9 | 11.3 | 12.7 | 14.1 | 17.6 | 21.2 | 24.7 | 28.2 | 35.3 | 42.3 |
pt→mm早見表(A0原寸・全角1文字の高さ)。太字=本文(32pt)・見出し(60pt)・タイトル(80pt)の基準。
大事なのは絶対値よりも「段差」をはっきり付けることです。タイトルと本文が2倍以上違えば、遠目にも紙面の構造が見えます。逆に、全部が同じような大きさに収まっていると、近づくまで何も判別できないポスターになります。
やってみよう:実物大で印刷して、距離を体感する
A0ポスターの横幅(841mm)は、A4用紙(縦)を横に4枚並べた幅とほぼ同じです。上のBefore/Afterポスターの上部(タイトル〜上段セクション、高さはA4の1枚分=297mm)を、実物大のままA4縦4枚に分割したPDFを用意しました。「倍率100%(実際のサイズ)」で印刷して左から順に並べて貼り、3m・1m・50cmの距離から実際に読めるか試してみてください。
- 整理後(After)の実物大PDF(A4×4枚)
文字サイズ:タイトル 60pt(約21mm)/著者名 44pt(約15mm)/セクション見出し 46pt(約16mm)/本文 24〜35pt(約8.5〜12mm) - 惜しい例(Before)の実物大PDF(A4×4枚)
文字サイズ:タイトル 44pt(約15mm)/著者名 34pt(約12mm)/本文 28pt(約10mm)——本文は読める大きさでも、タイトルが見出し(46pt)より小さく、段落が長いままだと結局読まれないことを体感できます
※ふつうのプリンタは紙の端3〜5mmが印刷されないため、つなぎ目が数mm欠けます(サイズ確認の用途には支障ありません)。
原則 2階層は3段まで。種類を増やさない
情報の階層(タイトル / 見出し / 本文)は、サイズと太さの組み合わせで区別します。ここでやりがちなのが、色・フォント・下線・斜体・影……と区別の手段を増やしてしまうことです。手段が増えるほど紙面はうるさくなり、かえって階層が見えなくなります。
- 階層は3段(タイトル / 見出し / 本文)+キャプションまで。それ以上の細分化は読者には伝わりません
- 区別はサイズ+太さだけで付ける。色や下線は強調(第4回)のために取っておく
- 同じ階層のものは、紙面のどこでも同じサイズ・同じ太さにする(見出しごとにサイズが揺れると構造が崩れて見えます)
原則 3行長は25〜35字、行間は1.4前後
サイズが適切でも、1行が長すぎると読めません。行末から次の行頭に視線を戻すとき、行が長いほど「どの行だったか」を見失いやすくなるためです。
- 1行の文字数は25〜35字が目安。段組みの幅は、実はこの行長から逆算して決まります
- 行間は文字サイズの1.4〜1.5倍。詰まりすぎは読みにくく、開きすぎは段落がバラけます
- 段落は3〜4行まで(第1回の「減らす」と同じ基準です)。長くなるなら箇条書きに変えます
原則 4フォントは「和文ゴシック1種+欧文サンセリフ1種」
掲示物は遠距離で読むため、線の太さが均一なゴシック体(サンセリフ体)が基本です。明朝体は細い横線が遠目に飛んでしまい、ポスターには不向きです。
- 使うフォントは和文1種+欧文1種に固定(例:游ゴシック+Arial、メイリオ+Helvetica など)
- 装飾的なフォント・手書き風フォントは、学術ポスターでは信頼感を下げます
- 太字はキーワードだけ。文が丸ごと太字になっていたら、それは強調ではなく「太い本文」です
「ここは入りきらないから20ptに」「ここは余ったから26ptに」——これを繰り返すと、サイズの段差が意味を失い、階層が読み取れなくなります。入りきらないときにやるべきは縮小ではなく削ること(第1回)です。
今日からできるチェックポイント
- タイトルは80〜120pt(長いタイトルは2行にして70〜60ptまで可)、本文は32ptを基準にできているか(A0の場合)
- タイトル・見出し・本文のサイズに、ひと目で分かる段差があるか
- 同じ階層の文字が、紙面のどこでも同じサイズ・太さか
- 1行25〜35字・行間1.4前後に収まっているか
- フォントは和文1種+欧文1種か。太字はキーワードだけか
サイズの階層は、テンプレートが守ってくれます
- 階層のプリセット — タイトル・見出し・本文・キャプションのサイズ関係がテンプレートに組み込まれており、どこに書いても階層が揃います。
- ブロック単位の文字量目安 — 入りきらない場合に「縮めて詰め込む」のではなく、量を見直すきっかけになります。
次回は「色」。紙面をつくる色を2色に絞るだけで、ポスターは見違えるほど整います。図の色の扱いと色覚多様性への配慮もあわせて解説します。
※本記事のポスター画像は、ポサコで作成した作例です。研究データ・氏名・所属はすべて架空です。サイズの目安は当社作例の検証値に基づくもので、学会の規定・掲示サイズにより調整してください。